「大変大変大変!!」

「・・・美冷さん?」

八戒がお買物で出かけている間に、血相を変えた美冷さんが家に飛び込んできた。

っ!悟浄は?」

「え?え?」

相変わらず美冷さんの言ってる事は、細かい事は分からないけど何となく意味は分かってきた。
名前だけは聞き取れるようになったしね。

「えっと悟浄は出稼ぎ・・・じゃなくて、賭場に・・・」

「もぅ!役立たずっ!!」



今、気のせいじゃなければ役立たずとか言わなかったか?



そんなあたしの疑問すら吹き飛ばす勢いで美冷さんが、あたしの肩を掴んで揺さぶる。

「それじゃぁ八戒は?」

「は、八戒は・・・お、お買物・・・」

「そんなぁ・・・」

がっくり頭を垂れた美冷さんに、何て声をかければいいか分からずオロオロしていると、ふと美冷さんの目がキラリと光り机の上に置いてあった八戒が作ったホールケーキを指差した。

!悪いけど、このケーキ貰っていってもいいかしら?」



・・・ヤバイ、さすがに何言ってるか分からない。



「急に大事なお客様が家に来て、その人が大の甘党なのよぉっ!この町のケーキ屋さんのケーキは食べ飽きたとか我が侭言い出して、それじゃぁもっと美味しいものご馳走します、なんて口からでまかせ言っちゃって・・・」

だ、だから美冷さん。
あたし、今、通訳(悟浄と八戒)いないので何言われてるかサッパリ分からないんですけど。

だらだら冷や汗流しているあたしを無視して、美冷さんは拳を握り締めてひたすら熱弁している。

「別にソイツを無視した所で、客が減るわけでも店がダメージ受けるわけでもないんだけど「貴女みたいな人の口に合うケーキ・・・ねぇ?」って感じで馬鹿にされたら、その喧嘩買わないわけにはいかないでしょ?」



・・・なんかわかんないけど、さからっちゃまずそうだ。



コクコクと首を縦に振ると、美冷さんの表情がパッと明るくなった。

「やっぱり?もそう思うわよね?だから、この八戒が作ったケーキ、貰ってってもいいかしら?」

八戒が作ったケーキを指差して、両手を合わせてるって事は・・・えーっと多分このケーキが欲しいと解釈していいんだよね?
確かこのケーキについては買物に行く前に八戒何も言ってなかったし、美冷さんなら知らない仲でもないからいいかな?
あたしが後でちゃんと八戒に言っておけば大丈夫だよね。

「ねぇ、貰ってもいい?」

不安そうな顔で首を傾げる美冷さんが、普段と違ってやけに可愛く見える。
そんな事言ったらまた笑われちゃうだろうから、それはゴクンと飲み込んで、あたしは了承の代わりに指でオッケーマークを作って頷いた。

「ありがとう!っ!お礼に悟浄のツケ、サービス料分引いといてあげるわ!」

「ほぇ?」

「本当にありがとう!待ってなさいよ、カバ親父っ!!

持っていた箱にケーキを入れると、凄い勢いで美冷さんは外へ出て行った。
残されたのは、謎の単語に首をかしげるあたしだけ。

「・・・サービス料?カバ?」



――― やっぱり、もう少し単語力だけでも増やすべき、かな





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えーと、こちらはオマケでございます。
美冷さんがケーキを持っていく過程が面白そうだなぁと思って書いてみました(笑)
サービス料とカバだけわかってるってのは、あの、なんとなくニュアンスでってことで宜しくお願い致します。
悟浄は出稼ぎに、八戒は買物に…通訳がいないので、向こうの方とお話するのは色々大変そうですね。
でも、人間切羽詰るとジェスチャーでなんとなく通じるものです。
困った時には皆様もジェスチャーで乗り切りましょう!
…ま、私はそういう場合、逃げますけど(おいっ!!)
※ この話では斜体の文字が桃源郷言葉(笑)普通の言葉が日本語となっておりますので、あしからずm(_ _)m